「サプライヤー」として部品の製造や加工を請け負う中小企業の中には、“見積もり”で頭を悩ませてきたところも少なくありません。
いま、サプライヤーが発注元との取り引きを円滑に行うために、デジタル技術で支援するビジネスが注目されています。
「値決めは経営」も… 煩雑さに悩むサプライヤー

山梨県北杜市にある社員約60人の金属加工会社は、ひと月に1500点ほどの受注をこなしています。
これまで頭を悩ませてきたのが、発注元からの依頼に対して価格を提示する“見積もり”です。材料費や加工費を含めた計算は煩雑で、この会社で適正な見積もりを出せるのは、これまでは藤森孝之社長だけでした。

一日30件ほどの依頼に対応しきれず、受注を逃すことも多かったといいます。
金属加工会社 藤森孝之 社長
「(見積もりを)夜中にやったりとか。非常に短い時間で何十枚、百枚という図面の見積もりを作らなきゃいけない」
デジタル化で見積もりを短縮 1週間→2日ほどに
そうしたなかこの会社は1年前、見積価格の設定を支援するソフトウエアを導入しました。


目安となる見積価格を割り出すことができます。
以前は“値決め”に1週間以上かかっていましたが、2日ほどに短縮されました。また藤森社長以外の社員も見積もりを担当できるようになり、ほぼすべての依頼に回答できるようになりました。
藤森社長
「『値決めは経営』と言って、いちばん経営の重要な部分。お客様の手元に見積書としてお返しできるところから、受注につなげていきたい」

適切な価格転嫁の「黒子」目指すスタートアップ

こうした見積もりの手間に悩む中小企業が多いことに目をつけたのが、ソフトウエアを開発した東大発のスタートアップ企業です。製造業の土台を担うサプライヤーが適正な受注を増やせるようにしたいと考えています。
この企業には、サプライヤーから「値決めをできる社員が高齢で引退してしまった」などと助けを求める声が寄せられているそうです。
ソフトウエアを開発したスタートアップ企業 前田将太 社長
「調達側の大企業からすれば1円でも安く仕入れたい。ただそのなかでも(サプライヤーは)しっかりと適切な付加価値を価格転嫁していく。そういうところにわれわれが“黒子”として貢献していきたい」

発注元への差し戻し デジタルで減らす
部品を製造するうえでどのようなリスクがあるかを提示し、サプライヤーを支援するスタートアップ企業もあります。
このスタートアップが開発したのは、サプライヤーと発注元が3Dの設計図を共有できるソフトウエアです。
AIが製品のパーツごとに形状を認識し、過去の結果を参考にして設計図どおりに製造した際のリスクを警告してくれます。


発注元への差し戻しを減らし、コストダウンにつながるといいます。
開発したスタートアップ企業 雲宝広貴 COO
「手戻り(修正)に費やしていた工数を、より付加価値の高いところにリソースをシフトしていけるようになるので、そういった好循環のサイクルが生まれてくるのではないかと期待している」

人手不足のなかで、これまで人に頼ってきた部分をデジタル化していく。企業の生き残りを左右するポイントになってくるかもしれません。
(経済番組 松村 亮)
【2024年11月8日放送】